大学進学

    APって何?取った方がいい?三男のUNC体験から親が学んだこと|大学に入って初めてわかる、APの合理性とその先にあるもの

    はじめに

    三男がUNC(ノースカロライナ大学チャペルヒル校)に入学して最初の学期が終わったころ、帰省した息子からこんな話を聞いた。

    「化学101の授業、希望するBiomedical Engineeringに進むためには必要だから履修したけど、クラスに300人もいたよ。。先生も授業回すの大変そうだったよ。」

    自分が大学生だった頃を思い出せば、決して違和感のない光景です。でも、つい最近までバージニア州の山の中でラピダン川に手を突っ込んでフィールドワークしていた三男からしたら、衝撃の光景だったのでしょうw

    アメリカの大学の大規模な講義室(UNCの101系クラスは300人規模になることもある)

    そもそもAPって何?

    AP(Advanced Placement)とは、高校生が大学レベルの内容を学び、試験で一定のスコアを取ることで大学の単位として認定してもらえるアメリカの制度です。試験は5段階評価で、3以上が合格の目安。ただし大学によって認定のラインが違って、例えば三男が通ったUNCでは3以上でOKですが、トップ校は5でないと認定しないケースが多く、学校・学部によってかなり幅があります。科目は数学、理科、歴史、語学など40科目以上あり、得意な科目だけ選んで受けられます。

    「101」って何?

    アメリカの大学では、入門レベルの授業に「101」という番号を付けるのが慣習です。生物101、化学101、数学101——要するに「その科目の一番最初のクラス」という意味です。日本で言えば「基礎」とか「入門」に近いイメージ。

    UNCのような大規模な州立大学だと、101系の講義は300人規模に膨らむこともあります。三男が履修した化学101がまさにそれでした。そして三男の場合、APで取れていない科目(化学101)について101系クラスを履修する必要がありました。

    三男が化学101を取った理由

    三男が1年次に志望していたのはBiomedical Engineering(生物医学工学)。UNCの中でもトップクラスに入るのが難しい、花形学部です。

    UNCには日本の東大の「進振り」に似た制度があって、入学後に取った単位や成績で希望学部への配属が決まります。だから1年次にしっかり101系の必修をこなして高い成績を維持することが、Biomedical Engineeringへの切符を手にする条件でした。

    三男はAP4科目(数学・物理・生物・英語)を取得しており、化学101の1科目だけ履修しました。APがなければ4〜5科目の101を取らないといけなかった。実際、APを持っていない学生はBiomedical Engineeringを専攻しないケースが多いと三男は言っていました。

    なぜAP化学を取れなかったか

    ではなぜ、三男はAP化学を取らなかったのか——というより、取れなかったのか。

    Woodberry Forest Schoolの生物の授業には、こんなプログラムがありました。学校の横を流れるラピダン川に出て、そこに生きる生物を1ヶ月かけて観察・調査するフィールドワークです。教室の外に出て、川の水に手を入れて、実際の生態系を目で見て記録する。化学も同じで、実験中心で進む。授業では先生が教科書の内容をもとに自作のスライドやハンドアウトを用意する。いわば『先生自身が教科書』という感じだ。

    Woodberry Forest Schoolの生物授業:ラピダン川でのフィールドワーク

    これ、めちゃくちゃ面白そうじゃないですか。私はそう思いました。

    ただ、AP試験とは相性が必ずしも良いわけではありません。APは全米共通の試験なので、カリキュラムも全米共通。Woodberryの授業が独自であればあるほど、AP試験の範囲とズレていく構造になっています。

    実はこれ、Woodberryに限った話ではありません。フィリップス・エクセター・アカデミーやアンドーバーといった全米トップクラスのボーディングスクールも、AP試験に特化した授業はしていない。「うちの先生の授業は、普通にやってもAPレベルを超えている」というのが彼らのスタンスです。郊外の自然豊かな環境にキャンパスを構えているボーディングスクールだからこそできる「生きた授業」が、AP試験の範囲に縛られない学びの土台になっています。

    三男はスポーツ、友人との時間、学校生活とのバランスの中で、AP対策を自分で上乗せするのは現実的ではなかった。それでも数学・物理・英語はWoodberryのスタンダード授業でもAP試験と重複する範囲が多く、生物も独自カリキュラムながらAP範囲との重複があったので、プラスアルファの自習でなんとかスコアを取れました。でも化学だけはそうはいかなかった。実験と自作スライド中心の授業はWoodberryの良さそのものだけれど、AP試験範囲との重複は薄い。結果として、AP化学は受験しませんでした。

    APの合理性を数字で見る

    とはいえ、APの合理性は数字を見ると圧倒的です。

    AP試験の受験料は1科目あたり約100ドル(2025-26年度は$99)。誰でも受けられる、全米共通の試験です。一方、UNCでは1単位$1,798。通常の授業は3単位で約$5,400。これでもアメリカの大学の中では『安い方』というから驚きだ(例えばNYUは1単位$2,272。大学によってさらに上がることもある)。AP試験$99で大学の単位をひとつ先取りできるなら、経済合理性は圧倒的に高い。三男が数学と物理でAPを取れたことで、その分の単位を大学でスキップできました。

    もうひとつ、GPAへの影響もあります。AP科目は高校の成績評価においてGPAを押し上げる効果があります。同じ「A」でも、AP科目はGPAの計算でより高く評価されるケースが多い。しっかり準備してAPで高得点を取ることは、大学出願時のGPAにもプラスに働きます。

    なお、公立高校の生徒がAPを積極的に取るのは、経済合理性に加えて大学受験のアピールポイントになるという側面も大きい。ボーディングスクールとAPの関係については、また別の記事で詳しく書きたいと思います。

    「使えるなら使うべき道具」であることは間違いありません。

    でも、私にはずっと引っかかっていることがあります

    APの合理性は理解しています。数字を見れば「使えるなら使うべき道具」だということもわかる。それは間違いない。

    ただ——少し立ち止まって考えてみたいのです。

    三男がWoodberryで生物の授業を受けていたとき、1ヶ月かけてラピダン川に出てフィールドワークをしていました。川の水に手を入れて、実際の生態系を目で見て記録する。化学も実験中心で進み、授業は先生の自作スライドやハンドアウト中心で展開される。高額な給料で雇われた専門家の先生が、「自分が本当に教えたいこと」を設計した授業です。

    これ、めちゃくちゃ面白そうじゃないですか。私はそう思いました。

    一方、UNCの化学101は300人の教室。「先生も授業回すの大変そうだったよ」と三男は言っていた。

    AP試験で『5』を取るために最適化された授業と、川に出て1ヶ月生物を観察する授業。どちらが「本当の学び」か——私の答えは、後者です。

    「全国共通カリキュラムを画一的に教える」仕事に、本当に優秀な先生を充てるのはもったいない、とはっきり言ってしまえばそういう話です。大学の101クラスが「授業回すの大変そう」という雰囲気になるのも、ある意味で必然かもしれない。教授の専門性と情熱は、入門レベルの標準化されたカリキュラムとは別のところにあるのだから。

    30年後に三男の中に残っているのはどちらだろうか。「AP生物のテスト問題が解けた」という記憶か、「ラピダン川の中に何が生きていたかを自分の目で見た」という経験か。私は後者だと思っています。

    それでもAPを否定はしない

    誤解のないように書いておきます。APが「悪い制度」だと言いたいわけではありません。

    三男のケースでも、数学・物理・生物・英語の4科目はAPを取れた。その単位は大学でしっかり活きています。公立高校に通っているなら、APは積極的に取りにいくべきだと思います。「使えるなら使うべき道具」だという立場は変わりません。

    ただ、APに最適化することと、本物の学びを追求することは、時にトレードオフになる。Woodberryのような学校が「あえてAPに特化しない」授業を設計するのは、そのトレードオフを知っているからです。

    「AP対策をしっかりやれる学校か」という基準でボーディングスクールを選ぼうとする方もいらっしゃると思います。でも私は、少し違う問いを持つようになりました。

    「AP試験の点数と交換に、何を失っているか」を考えること。それが、親として持っておくべき視点だと思っています。

    まとめ

    結局三男はBiomedical Engineeringとはご縁が無く、今は物理とビジネスを学んでいます。来年からはジャーナリズムも加わる予定とか。「APで単位を先取りして、志望学部に入る」という計画は、現実にぶつかってぐにゃっと曲がったようではありましたが、三男は元気ですw 最近は答えが一つに限らないビジネスにより興味を持ち始めたと。試行錯誤しながら前に進む、続けてほしいと思っています。

    APは便利な道具です。経済合理性もある。大学入学後に「取っておいてよかった」と思う場面は確実にある。

    でも、道具に振り回されてはいけない。三男がラピダン川で過ごした1ヶ月は、どんなAP試験のスコアにも変換できません。でも確実に、彼の中に何かを残したはずです。

    この記事はAP記事群の一部です

    • まず全体像を知りたい方へ:APとは何か?日本の親が知らないアメリカ大学受験の現実(記事準備中)
    • ボーディングスクールとAPの関係:ボーディングスクールがAPを取らない理由(記事準備中)
    • GPAとAPの関係性:GPAとAPの関係性——weighted/unweightedを親が理解する(記事準備中)
    • Woodberry Forest Schoolとはどんな学校か:Woodberry Forest School 完全ガイド

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